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鼠径ヘルニアについて

鼠径ヘルニアの治療法について

1.保存的療法

以前は保存的療法として、ヘルニアバンド(脱腸帯)が用いられたことがありますが、現在はほとんど用いられません。これを使用することによってヘルニアの袋と腸が癒着して手術が困難になることがあります。現在は大きな余病をもっておられて、手術が出来ない場合に限って使用します。

2.手術

通常はヘルニアと診断されれば、手術が必要となります。手術の方法は自分の筋肉や腱膜を縫い縮めて穴をふさぐ手術方法と、人口の網(メッシュ)を用いて穴をふさぐ手術方法があります。いずれの方法が良いかはまだ十分な検討がなされていませんが、各々一長一短があります。各々の詳しいことは後で述べます。

鼠径部の働きについて

鼠径部とは足の付け根の部位をさします。この部位は男性では精子をこう丸で作ってそれを送る管とこう丸をぶらさげている筋肉がお腹の壁を突き抜けて入っていきます。お腹の筋肉が弱くなったり、お腹に強い力をかけた時にその管の脇にすきまが出来ます。このすきまから腸が飛び出してくる病気がヘルニアです。俗に脱腸と呼ばれるのはこのことを示したものです。

ヘルニアの手術について

1.手術前の検査について

手術は通常は腰椎麻酔にて行ないますが、両側のヘルニアの場合には手術に時間がかかるので硬膜外麻酔または全身麻酔での手術が必要となりますので、外来にて心電図、胸部・腹部レントゲン、血液検査をします。この検査で異常があればさらにくわしい検査が必要になることがあります。

2.なぜ手術が必要ですか?

鼠径ヘルニアは放置しても自然に治ることはありません。子供の場合には放置して自然に治ることがありますが、大人ではありませんので手術が必要になります。また、放置すればヘルニアはどんどん大きくなってきます。さらに、ヘルニアの袋に入り込んだ腸が腐ってしまい、手遅れになると腸を切除する必要があり、場合により命にかかわることになります。このような理由でできるだけ早く手術をすることをお奨めします。

3.手術方法について

現在行われている鼠径ヘルニアに対する手術法としては、

① 鼠径切開法

② 腹腔鏡手術

③ ロボット支援腹腔鏡下ヘルニア手術

があります。

① 鼠径切開法

下腹部の皮膚、筋肉を4~5cm切開し(図1)、鼠径部にメッシュを留置し(図2)、鼠径部周囲の筋肉と縫い合わせて固定します。手術後はある程度の痛みや比較的強い突っ張り感がしばらく続き、重いものを持つなどの運動に制限がかかります。

        

② 腹腔鏡手術

腹腔鏡手術では術創は5-12mm程度の3か所を必要とし(図3)、CO2による気腹下に特殊な鉗子、カメラを用い、図4のようにモニター上に投影された画像を見ながら手術を行います。図5は腹腔鏡にておなかの中から見たヘルニアの穴です(図5)。医療用の網(メッシュ)を穴の内側から大きく覆うようにあてて閉じます。メッシュの固定は縫合が手技的に困難なため小さなクリップ(タッカー)で固定しますが、タッカーが鼠径部痛の原因になる場合があります。
腹腔鏡手術の主な利点としては、1.傷が小さく痛みが少ない、2.拡大視効果により微細構造の把握が可能、3.術者、助手、看護師が共通のモニターを見ながら、術野情報を共有しつつ手術を進行することができ、手術の安全な進行、効率的な手術教育に役立つ、4.低侵襲であり術後早期の回復が早い、などがあげられます。一方、問題点としては1.鉗子がストレートであり可動性の制限があるため技術的に高度であり慣れないと再発率が高い、2.モニター上に投影された2次元の術野を見ながらの手術操作となるため術中の空間認識が困難であることがあげられます。

        

③ ロボット支援腹腔鏡下ヘルニア手術

ロボット支援手術はストレスの少ない、より複雑で細やかな手術手技を実現することを目的として開発されました。従来の腹腔鏡手術における課題の1つである鉗子の可動性に関しては、先を360度回転可能な可動式とすることで克服できます。特に、結紮・縫合手技においては、鉗子先端の自由度の増加により微細な操作を少ないストレスで行うことが可能となりヘルニア手術においても有用と考えます。また、ロボット支援手術では3次元による正確な画像情報の取得が可能となり、腹腔鏡手術における課題の1つであった空間認識の困難さに関しても改善されました。すなわちロボット支援手術は前述の鼠径切開法、腹腔鏡手術の短所を克服し、双方の長所を取りいれた手術が可能となります。
このロボット支援手術は、欧米で医療用具として認可され、1997年より臨床応用されました。日本でもその有用性が徐々に認知され、2012年に前立腺癌、その後腎癌で保険適応となり、2018年からは食道癌、肺癌、胃癌、直腸癌、子宮癌などに保険適応が拡大されました。
日本では鼠径ヘルニアに対するロボット支援手術は保険収載されていませんが、海外では 米国を中心に急速に普及しており一般的な治療となりつつあります。米国では2016年時点でロボットヘルニア手術はヘルニア手術全体の19%を占め、4人に1人の外科医がロボットヘルニア手術を経験しており、1500を超える施設がロボットヘルニア手術を導入しています。
当院では、鼠径ヘルニアの患者様に対するロボット支援腹腔鏡下ヘルニア手術を保険外診療にて実施しています。

4.手術は安全か

一般的には、腸を切ったりすることがないので簡単に手術は済みます。しかし、手術の合併症3や副作用には以下のようなことが起こる可能性が稀ですがあります。

出血
手術終了時には完全に出血がないことを確認して手術を終わりますが、まれに再度出血が始まり開腹手術による止血が必要となることがあります。
創感染
手術創に感染をおこすと、傷が治るまで少し時間がかかることがあります。
創痛
手術後に創部の痛みが続くことがありますが、ほとんどは時間とともに治ります。
陰嚢水腫・血腫
手術でヘルニアの袋を取ったあとに、水や血液が貯まることがあります。ほとんどは外来通院にて経過観察で無くなりますが、稀に注射器で水や血液を何回か吸い取ることが必要となる場合があります。
薬剤アレルギー・ショック
手術・麻酔の際にはたくさんのくすりを使いますが、人によりアレルギーやショックを起こすことがあります。そのために抗生物質などはテストをしますがこれでも完全に予防することは出来ません。
メッシュの感染(メッシュ使用時)
メッシュを使用した場合にはこのメッシュが身体に合わなかったり、感染を起こしたりすることが稀に(1000 人に1人の割合)起こります。このような場合には再度手術してこのメッシュを摘出することが必要となる場合があります。
腰椎麻酔後頭痛
腰椎麻酔後に動きすぎたり、きばり過ぎたりすると術後に強い頭痛に悩まされることがあります。この場合通常は7-10日間続きます。術後は必要以上に動き回ることは控えて下さい。
ヘルニア再発・対側発症
ヘルニアの手術後にまたヘルニアになる再発の率は約1%と言われています。いずれの方法でも再発率はほぼ同じです。また、術後に手術した側の反対側にヘルニアがでることがありますが、この場合にはその時に手術をすればよいので、反対側が出るかもしれないからといって予防的な手術は不要です。

5.手術後に後遺症は残らないか

手術後に後遺症が残ることはほとんどありません。体内に残すメッシュも安全性が確立されたものですので安心してください。

6.入院経過について

手術に必要な検査はすべて外来にて済ませてしまいますので、通常は手術前日に入院していただきます。手術後は翌日から動くことも自由に出来ますし、食事も手術翌日から食べることが出来ます。手術後の経過に問題が無ければ手術後3~4日で退院していただけます。抜糸は埋没縫合としているため不要です。退院後、創部確認のため、1度受診していただきますが、その後の通院は不要です。

7.退院後の通院と生活について

術後3日目からシャワーや入浴が可能です。仕事は事務職なら手術後2~3日で可能です。メッシュ法で手術された方で、力仕事をされる方は3~4週間で可能です。過激な運動も術後3~4週間は控えて下さい。鼠径部切開法では、力仕事をされる方は2~3ヶ月で可能です。過激な運動も術後2~3ヶ月は控えて下さい。

8.入院の費用について

平均的に治療費は3割負担の方で鼠径部切開法で約80,000 円~100,000 円程度、腹腔鏡手術では約160,000円~190,000円程度の負担が必要となります。これは平均的に総室に5日間入院した場合ですので、これより入院期間が長くなれば、もう少し負担が増えることがあります。

ロボット支援腹腔鏡下ヘルニア手術は保険外診療のため、入院中の治療費は全額自己負担となります(詳しくは担当医にお問い合わせください)。


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